こんにちは!料理家よこたんです。
このあいだ低温調理器Anovaを購入しました!
さっそく調理しようとして、すぐ「何度で何時間くらい調理すればいいんだろ?」という問題にぶつかりました。
特に気になったのが低温調理がゆえの衛生面!おなか壊したくなーい!
いろいろとレシピは見つかるものの、果たしてそれが殺菌できる温度&調理時間なのかがわからないという…。
- 何度で加熱すればいい?
- それは殺菌できる温度なの?
- それって美味しくなるの?
- どれぐらいの時間加熱を続ければいいの?
このあたりを調べるのにかなり時間がかかったので、備忘録としてここに残しておこうと思います。
同じように悩んでる方は参考にどうぞー!
低温調理での殺菌(パスチャライズ)方法
低温調理では温度が低いほど調理時間が長くなります。
殺菌方法については安全のため、厚生労働省や低温調理が進んでいるアメリカのソースを参考にしました。
厚生労働省では食肉を75度1分もしくはそれと同等のレベルで加熱殺菌することが定められていて、
Q.食肉による食中毒防止のための加熱条件として、中心部を 75℃で1分間加熱することが必要とされていますが、これと同等の加熱の条件はどのようなものがありますか?
A.「75℃、1 分」と同等な加熱殺菌の条件として、「70℃、3分」、「69℃、4分」、「68℃、5分」、「67℃、8分」、「66℃、11分」、「65℃、15分」が妥当と考えられます。
低温調理のように加熱温度が低い場合はその分時間を長くする必要があります!
大事なのがここでいう温度とは、お肉の「芯温」のことです。
想像してみてほしいんですけど、薄切りのお肉なら60度の温度に3分で完全に火が入りますよね。
でもそれが5cmの厚さのステーキだったら…ちょっと火が入るか怪しいですよね(笑)
なので厚さによって加熱時間を変える必要があります。
低温調理についての本を出しているJason Logsdonさんがお肉の厚さ別に、殺菌ができる加熱時間をまとめていたので翻訳してみました。
低温調理の権威であるDouglas BaldwinさんやFDAの情報などをソースに作られています。
肉の種類 | 鶏肉や鴨肉などの胸肉 | 牛肉・豚肉・羊肉 | |||||
厚さと温度 | 58℃ | 60℃ | 63℃ | 65℃ | 55℃ | 57℃ | 60℃ |
7cm | 6:00 | 5:00 | 4:15 | 3:45 | 6:30 | 5:15 | 4:00 |
6.3cm | 5:20 | 4:25 | 3:35 | 3:10 | 5:40 | 4:35 | 3:35 |
5.7cm | 4:50 | 4:05 | 3:10 | 2:55 | 5:10 | 4:00 | 3:05 |
5.1cm | 4:15 | 3:20 | 2:30 | 2:20 | 4:30 | 3:20 | 2:30 |
4.4cm | 3:45 | 3:00 | 2:15 | 2:00 | 4:00 | 3:00 | 2:15 |
3.8cm | 3:10 | 2:30 | 1:55 | 1:40 | 3:25 | 2:25 | 1:55 |
3.2cm | 2:55 | 2:10 | 1:40 | 1:25 | 3:10 | 2:05 | 1:40 |
2.5cm | 2:15 | 1:35 | 1:15 | 0:55 | 2:45 | 2:00 | 1:30 |
1.9cm | 2:00 | 1:20 | 0:50 | 0:40 | 2:30 | 1:45 | 1:15 |
1.3cm | 1:50 | 1:10 | 0:35 | 0:25 | 2:10 | 1:25 | 0:50 |
この表だと55℃が一番低い温度になってます。
というのも殺菌に必要な最低加熱時間は芯温54.4度で4時間以上で、これより温度が低かったり加熱時間が短いと殺菌できません。
たとえば菌界で有名な、大腸菌やサルモネラ菌は55℃で10分くらい加熱しないと死なないのであります。
殺菌時間はお肉だけじゃなくてお魚にも適用されるのでサーモンのミキュイなどは(40℃〜45℃で一時間くらい)むしろ菌が増える温度でもあるので、新鮮なお魚を使うようにしてください!
殺菌には調理後のクーリングも大事
ほとんどの食中毒細菌は、人間の体温くらいで激しく増殖します。
一般にほとんどの食中毒細菌は、25℃~37℃の中温域に至的発育温度を持つ。
引用:食中毒細菌
なのでこの温度をすばやく通過させることで菌の増殖が防げます。
- 設定温度になってから食材を加熱する
- 加熱後はすぐ食べるか、一度氷水などで冷やして提供直前に温める
このひと手間でより安全に低温調理を楽しみましょー。
お肉が美味しくなる温度は?
「殺菌も大事だけど、ステーキなどあまり火が入らなくても大丈夫な料理もあるでしょ、食材が美味しくなる低温調理は何度がいいの?」
はい、当然の疑問ですね〜!
結構菌があまり死なない温度のほうが美味しかったりするんですよね〜…。
結論から言うと、基本は55℃〜65℃です。
Douglas Baldwinさんはステーキに55度、鶏胸肉やポークチョップに60度を推奨しています。
60度以上はあんまり使う機会がないです。これはちゃんと理由があるんですが、
それにはお肉について少し勉強する必要があります。
お肉の構成要素を理解する
調理したいお肉はどんな部位ですか?
低温調理の場合、お肉の部位により適切な温度が変わってきます。
というのもお肉の美味しさにはタンパク質の構成要素が関係しているからです。
お肉は「ミオシン」「アクチン」「コラーゲン」で構成されています。
これらがそれぞれ熱により変性(性質が変わること)することで食感や味わいに変化が起きます!
40~50℃でミオシン,さらに65~75℃の温度帯でアクチンの熱変性由来の吸熱ピークが顕著に検出される.魚肉の場合もこれに,おおよそ等しい挙動を示す.
基本的にはミオシンとコラーゲンを変性させ、アクチンを変性させないことで美味しさの最大値をとりにいくのが低温調理です。
ミオシンが変性を開始するのは50度で、お肉の色がだんだんと変わっていき歯切れが良くなってきます。
アクチンは水分を蓄えているタンパク質なのですが、66度くらいから変性していき水分を失ってパサついていきます。
コラーゲンは51〜53℃から徐々にゼラチン化しはじめ、65度くらいで一度熱収縮、70度〜80度でゼラチン化が進みます。
(熱により2段階で変性)
このように温度によって変性するものが異なるんです。
これから調理するお肉はすじが多い? それとも赤身?
まずは確認してみましょー。
コラーゲンどうする問題
殺菌に必要な温度も踏まえると赤身の多いお肉ならミオシンだけ変性させればいいので55〜65度での加熱がおすすめだとわかります。
問題はすじ肉(=コラーゲンが多い)!!
すじは柔らかくしたいけど赤身のしっとりさも残したいじゃないですか。
これが結構どう調理するか悩みどころです。 あと、好みにもよるかも。
なぜならコラーゲンは51〜53℃からゼラチン化しはじめると書きましたが、65度以下だとゼラチン化がなかなか進まないため調理にやたら時間がかかるのです…。
現実的な温度としては65度〜70度がおすすめです。
ちなみに75~80度を超えてくると一気にゼラチン化が進みますが、アクチンは66度から変性しますしお肉の硬さが目立ちます。
アクチンを変性させて多少ぱさついても問題なければ高温で、そうでなければ65度ギリギリを攻めてみるか、低温長時間でがんばりましょう。
そもそも低温調理じゃないほうが美味しいこともあるよ
ここまで低温調理の良さを語ってきてなんなんですが、低温調理は万能じゃないです。
例えばこのあいだ豚角煮を55度7時間で作ったのですが、ぜんっぜん美味しくなかったです(笑)
先に書いたように低温すぎたためにゼラチン化が進まず、脂も落ちませんでした。
豚バラなどの脂身や筋が多い場合、比較的高温での加熱がおすすめです。
赤身部分が多少ぱさつくものの、コラーゲンのゼラチン化がよく進み、脂も落ちます。
これは好みなんですけどわたしみたいに脂身をしっかり落としたい方はアクチンを変性させてしまって、70度でも良いと思います。
水分が抜けると調味料も染み込みやすくなりますよ〜!
お肉をより美味しくする焦げ目
もうひとつ低温調理と合わせて使いたいテクニックをご紹介。
ローストビーフなどを作る時は低温調理の前か後のタイミングでお肉の表面に焼き色をつけることをおすすめします。
お肉って焼けると香ばしいいい匂いがしますよね♪アレです!
あれはメイラード反応といって、細胞内に含まれるアミノ酸と糖が流出して加熱されると出てくる香気成分なのです。
メイラード反応は155℃の温度が一番よく進みます。
強火で焼けばいいのかな?と思いきや実はこれは中弱火くらいの温度。
鉄のフライパンなど蓄熱性が高いモノ以外はもう少し強くしてもいいかもですが、強くしすぎないように注意です。
お肉の表面のほうが細菌がいると言われているので、美味しさだけでなく殺菌するという意味でも表面を香ばしく焼いてみましょー!
というわけで、最後におさらいです。
- 殺菌には55度以上での加熱が必要
- 55度〜65度で加熱するとお肉の水分を保ったまま調理ができて、美味しい
- すじや脂が多いお肉は65度以上の高温も検討すると良い
あとは実践あるのみ。
いろんな部位で低温調理してみて、好みの温度を見つけてみてください!
ちなみにわたしが購入した低温調理器Anovaについては、別記事で詳しくまとめています。
低温調理器を購入しようと思っている方は読んでみてください〜。